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秋田家庭裁判所 昭和38年(少)136号 決定 1963年3月20日

少年 T(昭一八・三・二三生)

主文

少年を秋田保護観察所の保護観察に付する。

押収にかかる昭和三八年押第一八号(切出しナイフ一丁)はこれを没取りする。

理由

一、非行の事実

家庭裁判所調査官作成の本件少年調査票「本件非行」欄記載の事実と同一と認めるからこれを引用する。

二、法律の適用

刑法二三六条二項

調査並びに審判の結果に徴するに、

1  少年は自己の性器が他人と比較して極めて小さいと迷信し、きまりがわるくて人知れぬ悩みをもつていたものであるが、気が小さく精神病質であるところから神経衰弱気味となり、このことを考えこむと仕事も手につかず、遂には世をはかなみ、数回にわたり自殺を企てる等尋常の沙汰ではなかつた。然し自殺することもできなかつた少年は世間から逃避するため刑務所生活を送ろうとの浅墓な考えのもとに本件犯行を敢行したもので、その犯行態様はナイフを自動車の運転手に突きつけて金員を強取せんとしたいわゆる自動車強盗であり、悪質且大胆であるが、犯行当時の少年の精神状態は精神医笠松秀二診断の通り心神耗弱状態に近いことが認められる。

2  一方少年はこれまで非行行為は一度もなく、知能指数一〇五、中学時代の成績もオールBで普通、昭和三三年三月能代第一中学校卒業後、能代市○○書店に勤務したが、学生時代から電気関係の仕事に興味をもつていたところから能代市△△電気商会に勤めをかえ、仕事も人一倍真面目で研究心も旺盛であるところから、その人柄をかわれ、将来を嘱望され、少年自身もテレビ学校に入学し技術を磨いていたことが窺われ、少年の前掲迷信の事実を除き性格的に問題となる点がない。

3  然し少年には今なお自己の性器極小(事実は普通大)に対する異常なる関心を示し、当審判廷においてもこの事実に触れると興奮の余り涙を流し、その不安を訴える等精神病質の強迫神経症にかかつていることが窺われ、かかる状態である以上このまま少年を社会に放置するときは自殺の危険もあるので、精神病院に入院させた上相当期間精神指導とその治療を要することが認められる。そこで、当裁判所は秋田県知事に連絡をとり精神衛生法第二九条により精神病院に入院させる手続をとつた。

以上諸般の事情を考慮し、少年を保護観察に付するのが相当と認められるので、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項、少年法二四条の二により主文のとおり決定する。

なお、少年の心身及び環境についての問題点と補導上留意すべき諸点は本件の社会記録中に尽されているが、少年は目下秋田脳病院に入院加療中なので、医師と十分連絡をとつた上十分な保護観察を続けられたい。

(裁判官 根本隆)

参考一 少年調査票<省略>

参考二

診断票

昭和38年-(少)第136号

裁判官

調査官

技官

笠松秀二

事件名

強盗

診察日時

昭和38年3月15日

氏名

T <男>

8年3月23日生 女

診察場所

家庭裁判所医務室

身体的診断

健康

精神的診断

精神病質の強迫神経症の状態に在る

家族歴

母方祖父が心因性の精神障碍の状態を示した事がある。又母方叔母が昭和20年精神分裂症と診断せられ、秋田脳病院に入院し寛解退院して居るが、最近再発し島田病院に入院して居る。

本人歴

出生時 正常

乳幼時期 特に重篤な疾患に罹患した事なし。

少年時代成績は上位、内向的で神経質で、心気的傾向があり、中学卒業後自己の性器に欠陥があるとの考えから絶望的な気分となり、自殺未遂が3回。

身体状態

身体発育正常、変質畸形はない。

胸腹部に異常所見なく、神経病学的にも異常所見は見られない。

性器が小さいと心配して居るが、勃起力は正常で、性交も可能で、その経験もある。

検査

精神状態

非常に感情的である。

心気的、神経症的傾向明らかで、自分の肉体に関する不全感に苦しむ様子がみられる。又精神的にも自信を欠き、ややともすれば苦悶的な状況を示しかねない。

併し現在の処、精神分裂症を疑はしめる言動はみられず、又抑うつ症にみられる様な意志活動の抑制はみられず、精神病質の強迫神経症の状態と考える事が適当であろう。

心理学的検査

検査

所見および意見

精神病質の強迫神経症の状態に在る。

尚自殺企図の可能性も考えられ、精神病院入院の上、精神病医による、精神指導と治療が必要である。

昭和38年3月15日

秋田家庭裁判所

裁判所技官 笠松秀二 <印>

参考三 鑑別結果通知書<省略>

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